2022年12月29日木曜日

小林政子訳 「最後のヴァイキング」
ローアル・アムンセンの生涯 (2017)
「地上の探険」Golden-Era は終わった!

我が輩は「月並み」の冒険家/登山家で、北極点や南極点に達したことはないし、エベレス トの頂点にも達したことはない。 我が輩は、自分自身の選んだ「エベレスト」 (「PAK」と呼ばれる病原/加齢キナーゼ) を究めつつある研究者に過ぎない。しか しながら、エベレストの頂点に初めて到達したヒラリー郷やテンジン (シェルパ ) の快挙や、南北 (両) 極点に初めて到達したアムンセンの快挙に、脱帽せざるを 得ないし、そこに到達するまでの 困難なプロセスから学ぶことが極めて多い。
さて、我が輩の昔の「邦訳の相棒」(小林さん) が、数年前に、アムンセンに関す る評伝を邦訳して、出版したことを、(紀伊国屋のサイトで) 最近知った。 未だ 読んでいないが、"実際に南極点に達した経験のある日本人冒険家"が、絶賛してい るので、 (多少長くなるが) "絶妙の" 書評 at Amazon.co.jp を参考までに、ここに "転載" して、紹介したい。。。
(阿部雅龍: 2019年1月、日本人初踏破の「メスナールート」による南極点単独徒歩到達=918 kmを達成) のように南極点に到達したという実体験から、この人物を語れる日本人は少ないだろう。 人類史上初めて北極点と南極点に到達し、極地冒険史上で燦然と輝く冒険家であるローアル・アムンセン。南極ではアムンセン隊とスコット隊、白瀬矗 (同郷の大先輩) 隊との南極点争奪レースが繰り広げられた。 冷徹かつ完璧な冒険家というイメージをずっと持っていたが、この本で覆された。原文も素晴らしいのだろうが、"訳が秀一" だ
遠征の旅に借金を重ね、多額の資金獲得の為に走り回る。エンタメと冒険を組み合わせ、アムンセン自身は一流の冒険家でありながら、一流のショーマンでもあった。記念切手を売り、新聞社との独占契約をとり、ミディアミックス的に冒険という商品を売り出していく。現代冒険でも主だって取られる手法を開拓したのは彼だった。 真のヒーローたる人間でありながらも、運命に押し流され、老年に差し掛かった最後は, 遭難者の救助の為に向かった北極に消えていく。
南極探検英雄時代は超人的な冒険家たちが活躍したが、その中でアムンセンは名実ともに随一の存在だ。犬ゾリで南極点に到達した際も、積んだ食糧や燃料などが減りソリが軽くなるため、帰路に犬を射殺して食糧にする事を予定に組み込み、犬ゾリのスキルはイヌイットたちから学び、探検隊の分裂を防ぐ為に船長と隊長を兼ねて遠征に出るというスタイル(船長と隊長というリーダーが2人いると隊は分裂しやすい)で隊を見事にまとめ上げるリーダーシップを発揮する。 アムンセンが書いた自伝を読むと、あっさりと南極点に到達したかの如く見えたが、 この本を読むと南極遠征の苦労がありありと見えてくる。
21歳で両親をなくし、探検を志し、北西航路を船で航海し、犬ゾリで南極点へ、飛行船で北極点へ。行き先ばかりか手法までも次々と変え、目標を達成していく。 これらの1つのみでも大冒険なのだが、それに満足せず歩みを続ける。 1つの冒険を達成すれば生涯生きていくだけの十分な資産が講演などで手に入ったはずだ。 アムンセンは安楽を貪ることをせず、資産を全て次の遠征に注ぎ込むばかりか、借金まで重ねていく。 生涯を通して安定する事は決してなく、次なる窮地に自ら飛び込んでいく。 どうしてそこまで・・・と思う人の方が多いだろう。 お金は彼にとって夢を叶える手段でしかなかった。 資料を元に客観的な文章が続いていくが、スポンサード (Sponsored ?) しながら冒険をしている僕自身にとっては他人事ではなかった。 時代は違えども、現代冒険家たちと丸っきり同じじゃないか。 新たな冒険のアイデアを生み出し、資金獲得に駆け回る。 時代は違えども、その歓喜も悲哀も自らの事として痛切に感じる。
彼は"鉄の意志を持った傑物"だったのは間違いないのだが、どこまでも不器用、であるにも関わらず、世間は彼の気持ちなどお構いなしに、遠征の成否で上げたり下げたりしてくる。 プロとして生きるという事はそういう事なのだが、精神的にも疲弊してくるアムンセンの姿が後半になるほどに痛々しい。長年の冒険で身体がボロボロになって行く描写もあり、医者には、「長生きしたければ冒険を止めろ」と忠告される。 過酷な現場に出続けるという生き方が、いかに苦しい生き方なのかと思わされる。
それでもアムンセンが掻き立てられるように冒険に向かったのは、誰よりも "ロマンチスト" であり、ロマンを冒険で体現して生きる男であったのだろうと僕は感じた。 不器用な生き様ではあるが、信念を貫いた男の生き方として僕は憧れる。 また、この本ではヒロイックな冒険家の、決してヒロイックとは言えない恋愛事情まで語られる。 この部分が実に人間らしく、かえって彼を好きになれる。
アムンセンと言えば、スコット隊との南極点レースの印象から、好かない 読者も多いだろうが、そういう人にこそ、この"等身大のアムンセン"を知って欲しい。 きっと、この人物が好きになる。 そして、リアルを知ってこそ、彼の偉大さがわかる。

我が輩が幾つかの書評を読んで感じたことは:
1。 南極点に (犬ソリで) 一番乗りを果たした (ノルウエーの) アムンゼンは「プロ」(準備周到) であるが、(馬ソリで) 二番手に終わった (英国の) スコットは、残念ながら、所謂 「アマチュア」(準備不足) だった。
2。 エベレストを初登頂したヒラリー郷は、その後南極点にも達したが、結 局 (米寿まで) 長生きしたが、アムンゼンは冒険のために、身体を酷使し、結局 (北極海で) 「遭難」、短命 (55歳!) に終わった (遺体は未だに回収されていない!) 。 我が輩は、 できれば「前者」の (或いは、免疫学者「バーネット」のような) スマートな生き方 (健康長寿) を選びたい。。。(読者が) 登山家なら、井上靖の実話小説「氷壁」と比べながら読むと面白い。。。
アムンゼンは、1911年に人類史上初めて南極点への到達に成功、1926年には飛行船 で北極点へ到達! そして、1953年にはヒラリーとテンジンが最高峰エベレスト の頂点に立った。以後、既に70年近い月日が経っている。いわゆる「地上の探険 時代」は、もう終わった! 新しいルートで、南極点やエベレスト山頂などに到 達する「探険」は、ある意味で「自己満足」に過ぎない! それだけのエネルギー と知恵があったら、 地球上で、様々な病気やその他の理由 (例えば、戦争や飢饉や貧困 ) で苦しんでいる人々のために、(ヒラリー郷の如く)、それをフルに利用してもらいたい!

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