2022年12月31日土曜日

Gleevec: 癌 (CML/GIST) の治療薬として最初に市販された チロシン=キナーゼ (ABL、 KIT、PDGFR etc) 阻害剤
NF 腫瘍にも効くはず!("ジェネリック" 製品は安価!)
"一年の計" は元旦にあり! "Gleevec" はCOVID 肺炎にも効く!?

この治療薬の開発の背景には、かなり長い歴史がある。 先ず、1960年に、米国フィ ラデルフィアの癌研究者 (ピーター=ノウエル とデビッド=ハンガーフォード) が CML (慢性骨髄性白血病) 患者の白血球の (22番目の) 染色体が、正常な白血球の 染色体に比べて、明らかに短い ( つまり、一部欠損している) ことを発見した時 点に始まる。 そして、この奇妙な染色体を「フィラデルフィア染色体」と名付け た。 その後 (1973年に)、 シカゴ大学のジェーン=ローリーが、CML患者が余分な DNAを9番目の染色体にもっていることを発見した。 更に詳しく調べてみると、22番 目から欠損した遺伝子が9番目の染色体に転移/転座していることが判明した。 その後、この転座により、BCR-ABL という融合発癌遺伝子が形成していることが 判明した。 この融合遺伝子は、正常なABL遺伝子より、異常に活性化され、発癌 の原因になっている。
その後 (1986年頃)、ABL遺伝子産物がチロシン=キナーゼの一種であることが、デ ビッド=ボルチモア (MIT 癌研 のノーベル医学受賞者) らによって、発見された。 そこ で、この発癌性 "ABL" キナーゼを阻害する薬剤を開発するというプロジェクトが、ス イスのバーゼルにある「Novartis」 の前身であるチバーガイギーの研究所で始まっ た。 このプロジェクトを主導したのが、(1983年にチバガイギーに就職した) ア レックス=マター医師 (博士) だった。 先ず、彼はニック=ライドンという若い生 化学者を自分のチームに誘い込んだ。
もう一人、Gleevec の開発に重要な貢献をした医師が米国にいた。ボストンのダ ナ=ファーバー癌研のブライアン=ドルーガー医師だった。 1988年に、ニックはブラ イアンに面会して、如何にして、チロシン=キナーゼ (ABL) を阻害する薬剤を開発 すべきか、じっくり相談した。丁度その頃、イスラエルの (我が輩の友人である ) アレックス=レヴィツキーのチームが、EGFR などのチロシン=キナーゼに対する 一連の阻害剤を開発し始めた。 1990年に、 (ETH で博士号を取得した) 新鋭の有 機化学者、ユエルグ=ジンマーマンがマターのチームに加わった。そして、ユエル グが合成した化合物を片っ端から、ニックらが ABLキナーゼを (選択的に) 阻害する かどうか、検索し、それに合格した物を、ブライアンが動物実験や臨床実験で薬 効を確かめる、という作戦を遂行した。
1992年に、どうやら目的の阻害剤が見つかりつつあった。問題は、水溶性に乏し いことだった。 1993年の春、「STI=571 」(後に「Gleevec 」と改名) という化 合物が、社内の「医薬品候補」となった! 丁度その頃、ブライアンは、ボスト ンからオレゴン大学 (健康科学) の癌センターに転勤し、 Gleevec の薬効を動物 実験で確かめ始めた。さて、1996年に、サンドとチバガイギーが合併し、 「ノバルチス」製薬となった。 同じ頃、ブライアンは、Gleevec の臨床試験"準備"を開 始しつつ、Gleevec に関する研究論文を初めて、ネイチャー (医学) 誌に発表し た。
1998年夏に、臨床 (フェーズ I) 試験が開始された。結局、149名のCML 患者が登 録された。 全員が「インターフェロン療法」に耐性! 一年後の試験結果は、副 作用なし! 勿論、多くのCML 患者の白血球から、例の「フィラデルフィア染色体」 が消えていった ("治療効果がある" という証拠!)。 会社は薬剤の増産を開始し、フェー ズ II を 1999年5月に始めた。 米国のCML患者数は当時、約15、000 人。 全人口 (3億人の僅か 2万分の1! NF2 患者数より多少多い程度)。インターフェ ロン療法では、半年後に 殆んど全員が死亡したが、Gleevec 療法では、生存率 90% だった! この結果から、会社は、臨床テスト開始2年半後 (2001年2月末)に 、FDA へ「新薬申請書」を提出した。 何んと3カ月後に、「Break-through 」 として承認された!
その後、Gleevec には、ABL ばかりではなく、KIT やPDGFR 等のチロシン=キナー ゼをも阻害することが判明した。 実は、これらの発癌キナーゼの下流には、発癌 キナーゼ「 PAK 」が関与する。従って、Gleevec は、間接的に "PAKをも遮断"する ので、NF腫瘍など (全ての固形腫瘍) の治療にも有効であることが判明した。 2009年 に、ブライアン=ドルーガーはGleevec の開発 (市販化) に貢献したことを讃えられ、「ラス カー医学賞」をもらい、 2013年には、アレックス=マターが「セント=ジョルジー賞」をもらった。
2014年には、中国の研究グループによって、Gleevec に美白 (メラニン色素合 成を阻害する) 作用があることが報告された。実は、これは驚くべきことではな い。というのは、丁度同じ時分に、我々は「メラニン色素合成にはPAKが必須」で あることを突き止めたからだ。Gleevec は、"PAK遮断作用" によって、美白作用を発 揮する。 つまり、(長らく) 常用していると、
「フコイダン」同様、"美白" にもなる!
実は、アレックス=マター (82歳) は、Gleevec の市販に成功後、2004年頃から、 シンガポールの研究所を拠点にして、伝染病の治療薬を開発するプロジェクトを 主導しているようである。 そこで、来たる2023年に、シンガポールを久し振りに 訪れ、アレックスから、我々のPAK遮断剤「15K」の市販化への作戦 (極意!) を (何とか) 伝授してもらおうと計画している。。。
参考書:
詳しくは、ロバート=シュック著「新薬誕生」(小林 力 訳、2008年出版) の 第6章: グリーベックを参照されたし。

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