2022年12月19日月曜日

世紀の賭け: PAK欠損株は、
果して、野生株より利口か?

沖縄科学技術大学院 (OIST) で、2005頃からごく最近まで永らく線虫 (C. elegans) の遺伝学を研 究していた大家、丸山一郎教授が最近、米国のカルフォルニア州サンディエゴに 戻ったという知らせを受け取った。 恐らく、当地で家族とゆったり余生を楽しむ 予定なのだろう。。。
彼との出会いは、2003年頃だったと思う。彼はシドニー=ブレナー (1927-2019、 2002年に線虫の研究でノーベル医学賞をもらった) の英国 MRC 時代以来の弟子だっ たが、ブレナーが「沖縄に、(英語を公用語とする) 国際的な「自然科学大学院」 を沖縄に創立する」と言い出したので、その宣伝も兼ねて、2001年にブレナーが 出版した英語の自伝を「エレガンスに魅せられて」という表題で「邦訳」版を、 地元の琉球新報から出版すべく、我が輩と丸山さんの家族で邦訳を引き受けた。 その後、残念ながら、丸山さんに再会する機会はなかったが、 今回の「帰米」を 機会に、彼と文通を再会してみた。
実は、2013年に、我々は線虫のPAK欠損株 (RB689) が野生株より6割も長生きをす ることを発見して、記念にPAK 研究に関する最初の単行本 (英語版) を出版した。 その折、1994年にPAK を初めて哺乳類で見つけた英国人で、シンガポールで研究 を続けているED Manser 博士と、面白い「賭け」をした。 彼曰く、「PAK欠損株は 長生きするかもしれないが、阿呆だ!」。 我が輩は、「そうは思わない! 多分、よ り賢明ではなかろうか」と答えた。 実は、PAK遮断剤は一般に、認知症などの障害 のある老人らの「記憶力を回復」する作用があるからだ。 しかしながら、後者を裏 付ける遺伝学的な証拠は未だない。 そこで、丸山さんに、サンディエゴで、その 「賭けに決着を付ける」ために、線虫で、RB689と野生株の間で、一体どちらが、 例えば、いわゆる「条件反射」という記憶力の一種をより発揮するかを、(暇にま かせて) 調べてみて下さい、とお願いしてみた。。。
野生株は食塩に向かって走行する性質 (chemotaxis) があるが、その直後に餌を除 くと、(学習の一環として) 以後「食塩」を避けようとする習性 (条件反射) が備 わる。。。
さて、線虫の「学習」実験は兎も有れ、人類の場合は、少なくともPAKの活性が (健 常よりも) 1.5 - 2倍ほど高まると、NF1 やダウン症 (DS) を発症し、知的障害 (学習能 の低下) がしばしば起こる。興味深いことには、NF1 や DS の患者では、(PAK遮 断剤である) 「ビタミンD3」 の血中濃度が極めて低いことが、判明した (1)。そ の主な理由は、恐らく、D3 を水酸化し (不活化する) 酵素 (CYP24) の遺伝子発 現がPAK依存性であるからだ。 従って、(幼児の頃から) フコイダ ンなどのPAK遮断剤をビタミンD3 と併用すると、鬼に金棒! 「相乗作用」によ り、(少なくとも) 「PAK活性を正常レベルに下げる」ことによって、学習能力が 高められる可能性が高い。
参考文献:
1. Stefano Stagi , Elisabetta Lapi , Silvia Romano , et al (2015).
Determinants of vitamin D levels in children and adolescents with down syndrome (DS).
Int J Endocrinol. ;2015:896758.
しからば、「ビタミンD3 の血中濃度」を指標にして、それは「PAK の活性レベル に反比例」し、「 "知能指数" (いわゆる「IQ」) や "寿命" に比例する」、と判断 (一般化) して良いだろうか? 少なくとも、線虫の場合、D3 は確実に寿命を延ばす (2)! (線虫の「IQ」を測定する 方法は、未だ確立していないが) 。
2. Karla A Mark , Kathleen J Dumas , Dipa Bhaumik , et al (2016).
Vitamin D Promotes Protein Homeostasis and Longevity (of C. elegans) via the Stress Response Pathway Genes skn-1, ire-1, and xbp-1.
Cell Rep. ;17(5):1227-1237.
少なくとも、マウスの認知症 (AD) モデルでは、ビタミンD3 が 確実に 「記憶力」 を改善する (3)!
3. Maria Morello , Véréna Landel , Emmanuelle Lacassagne et al (2018).
Vitamin D Improves Neurogenesis and Cognition in a Mouse Model of Alzheimer's Disease (AD).
Mol Neurobiol; 55:6463-6479.

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