病原キナーゼ (PAK) に拮抗する遺伝子産物の歴史は、抗癌遺伝子 NF2 から生産される「メルリン」がPAK を直接阻害することを、我々が2003年に発見した時点に、遡ることができる。 以後、様々な抗癌遺伝子産物が、PAK を阻害あるいは遮断することが続々判明した。言い換えれば、大部分の固形癌は、PAKを遮断すれば、(副作用なしに) 治療可能である!
NF1 産物は RAS GAPの一種で、RAS の機能を阻害することによって、下流のPAK を遮断する。 PTEN産物 は、フォスファターゼの一種で、PAKを脱燐酸化して、それを不活化する。LKB1 産物は 抗癌キナーゼで、PAK を燐酸化して、不活化する。同時に AMPK と呼ばれる抗癌キナーゼを (逆に) 活性化する。 この LKB1 に関する研究は、我が輩の (東大時代の) 友人で、 京大医学部の武藤 誠 (教授、北野病院の研究部長と兼任) らの2010年頃の研究による。 RB については、前述した。
さて、つい最近のNF2に関するレビューを読んでいたら、面白い記事が見つかった。
実は、2012年頃に、Jim Gusella の研究室で、メルリンのもう一つの標的を見つ
けていた。それは「TOR 」と呼ばれる発癌キナーゼである (1)。 従って、メルリ
ンはPAK 以外に、TOR を阻害しているようである。言い換えれば、TORの阻害剤
(例えば TORin 1, IC50=250 nM) によっても、NF2 腫瘍の増殖が抑制されるらし
い。 従って、理論的には、PAK遮断剤とTOR阻害剤を併用すると、NF2腫瘍の治療
がより効果的になるはず!
海藻由来のフコイダンがNF腫瘍に効く、と前述したが、ごく最近の中国 (チンタオ
大学) の研究チームによれば、フコイダンは (「PAK」を遮断するばかりではなく
)、「TOR」も阻害する (2)。 従って、フコイダン自体でも 「鬼に金棒」!
更に、(NF 腫瘍の治療に) フコイダンとビタミン D3 の併用を勧めているが、実は
D3 には、(「PAK遮断」ばかりではなく)、TOR を阻害する作用もあることが、判
明した (3)。従って、フコイダンとD3の併用を引き続き、推奨したい! Merry X'mas and Happier 2023!
参考文献:
1. MF James, E Stivison, R Beauchamp, S Han, H Li, MR Wallace, JF Gusella,et al (2012).
Regulation of mTOR complex 2 signaling in neurofibromatosis 2-deficient target cell types.
Mol Cancer Res.;10(5):649-59.
2. Nan Zhang , Meilan Xue , Qing Wang , et al (2021).
Inhibition of fucoidan on breast cancer cells and potential enhancement of their sensitivity to chemotherapy by regulating autophagy.
Phytother Res. ;35(12):6904-6917.
3. A Al-Hendy , MP Diamond , TG Boyer , SK Halder (2016).
Vitamin D3 Inhibits Wnt/β-Catenin and mTOR Signaling Pathways in Human Uterine Fibroid Cells.
J Clin Endocrinol Metab. ;101(4):1542-51.
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